私は彼に愛されているらしい
話しかけられると作業が止まってしまうので最初に聞かれそうなことを付箋に書いて端末のハードや液晶の淵に貼っておいた。

・作業終了予定時刻は20時過ぎ。

・仕事の依頼はメールで送付、あとで確認に向かいます。

・緊急以外はメモかメールでお願いします。

いつの間にか定着した私のスタイルは周りにも知られるところになって、この状態の私に話しかける人は極端に少なくなった。あの片桐さんでさえ触れてこない。

この状態が一番質のいい仕事をするのだと自分も周りも分かってくれているのだ。怖いとは言われるけど。

「…よし、出来た。」

チェックも終わり出力の確認もして新しい綺麗な図面も用意した。データ送付は設計士の確認が終わってからだ。時計を見ると20時を少し過ぎたところだった。

うん、工数管理も良くなってきたな。

「竹内くん。修正完了しました、確認お願い。」

別の端末で作業していた竹内くんに図面諸々を差し出しながら声をかけた。あれ、少しの違和感。

「ありがとうございます。預かります。」

そう言って受け取ると竹内くんはすぐに大きな机に移動して図面を広げながら確認作業に取り掛かった。ここからは設計士のセンスが光るところだ。

私が直した図面、その形が美しいかどうか、どう表現したいかを拘るところだ。

私としてもなるべく見た目の美しさを意識して修正したつもりだが、設計士によっては微妙な調整を欲しがる人もいる。口煩いと補助の女性陣が文句を言うところだがこだわりを感じる分には意識の高さに拍手を贈りたい。

でも大した中身も無い設計士に関しては除外させて。

「清水さん、終わった?」

ぼんやりと竹内くんを眺めているところにチーフが声をかけてきてくれた。その様子だと帰宅したいのかなと私は微笑んで頷く。

「はい、竹内くんの最終確認です。もうすぐ上がれますので、どうぞチビちゃんたちの所に行ってあげてください。」

「竹内の図面を確認したら上がるよ。ありがとう。」

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