私は彼に愛されているらしい
まだまだ小さなお子さんがいるチーフは子煩悩だ、きっとすぐにでも家に帰って一緒にお風呂に入りたいに決まってる。せめて寝る前に帰りたいだろうな。

「清水さん、ありがとうございました。完璧です。チーフ、終わりました。」

「分かった。室長にデータ承認してもらう様に言ってくる。」

「ではデータ送付します。」

竹内さんの報告にチーフが動き出し、私もデータ送付に取り掛かった。ものの1分もあれば作業は終わる。

送付先を選んで、データを選んで、言葉を添えて。うん、間違いはない。

「データ送付しました。」

室長の席に言って報告をすると室長がすぐさま承認決済の手続きをしてくれる。これも10秒あれば出来る作業だ。

「お疲れさん!ゆっくり休んでくれ。」

室長の労いに私の表情は緩む。周りを見ると残っている人は数えられるくらいになっていた。

CADに戻って片付けをし、席に戻ると誰の姿も無い。チーフはさっき帰ると挨拶をしてくれた、室長のPCは起動したままだからまだ社内には居る筈。

今日はもう帰って寝ようかな。コンビニ弁当で済ませちゃおう。

自席の片付けをしているとこんな時間にも関わらず内線音が響いた。少し音が遠い、竹内くんの席の辺りだと気付いて取ろうとしたが竹内くんが戻ってきたので手を引いた。

「はい、設計部竹内です。」

心地よい低音がフロアに響く。金曜の夜だけに音が響くが、いつものこの時間なら平気で電話が鳴っているので別に今の電話にも何も感じはしなかった。

でも流石に金曜日の夜は寂しさが付きまとってくるな、なんか自分だけ取り残されたような気がして軽く沈む。

「今日はスイーツ買ってこう。」

自分へのご褒美を設定すると急に気持ちが軽くなってきた。そうだ、スイーツを買ってこう!

こんな時間だけどまだ種類はあるかな、今日はエクレアな気分かも。考えれば考える程楽しくなってきた。

自然と笑みが浮かんで途中だった片付けにいそいそと手を付けると声がかけられる。

「清水さん、総務から5番に電話です。」

「え?」

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