私は彼に愛されているらしい
受話器を上げて声をかけてきたのは竹内くん、不思議に思っている私を置いて彼はまた立ち上がった。

こんな時間に総務部から、それだけでも謎なのに誰からかも告げないで行ってしまったことに一層首を傾げる。一体何の用事だろうか。

「お電話変わりました、清水です。」

「竹内です。」

えっ?

その声を聞いて私は思わず顔を上げた。そこにはフロア内を歩いて奥の扉に向かう竹内くんの姿がある、そして彼は携帯を耳に当てていた。

「さっきはありがとうございました。約束、覚えてますよね?駅の改札前で待っていて下さい、俺もすぐに向かいますので。」

「え、あの…。」

私は竹内くんを目で追いながら戸惑いの声を漏らした。もう既に遠い場所にいる竹内くんはゆっくりと振り向いて私の方に顔を向ける。

そして眼鏡を外して企んだように微笑んだ。

なに?その怪しげな微笑は。そんなこと考えながらも彼のペースに引き込まれていくのが分かる。

「じゃあ、また後で。」

「…分かった。」

さっき抱いた違和感は眼鏡だったんだ、私は静かに納得すると無意識のうちに頷いていた。

受話器を置いた頃に室長が戻ってきて軽く会話をする、そして荷物を持った私は言われた通りに駅の改札へと歩いていったのだ。

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