私は彼に愛されているらしい
かなり真剣に言ったことだったのに竹内くんは聞くなり吹きだしておもいっきり顔を逸らしてきた。何それ嫌な感じ、その態度は本気で笑ってるってことよね。

「何よ。」

「いや、この年で大人っぽいって言われるとは思わなかったので。」

「馬鹿にしてる!?」

「馬鹿にしていると言えば、ここ。」

そう言って竹内くんは自分の口の端辺りを人差し指で叩いて意味ありげに微笑んだ。それが何を意味するか察知した私はすぐに自分の口元をナプキンで拭った。でも、かなり心配。

「ちょっと行ってきます。」

「どうぞ。」

鞄を手にしてそそくさと化粧室に向かった。鏡と向かい合って確認すると、うん、汚れはない。

でも折角だからお化粧直しもさせて貰おうと私は素早く手を動かした。化粧ポーチを戻して髪形や服装も確認する。

「よし、これでオッケー。」

こういった場所のお店はお化粧室を店内に設置していないからちょっと距離があるのよね。帰り道に周りを見ても雰囲気のよさそうなお店ばかりで興味が惹かれる。

しまった、竹内くんを待たせてるんだった。私は気持ち急ぎ足で席に戻る。

「お待たせ。」

「いえ。」

てっきり携帯を触りながら時間を潰しているかと思ったのに、予想に反して竹内くんは窓の外の景色を眺めながら待ってくれていた。そして気を遣わせない笑顔で迎えてくれる。

「そろそろ行きましょうか。」

「そうね、ゆっくりしちゃったかも。」

椅子に座って夜景を眺める時間を私に与えてくれると竹内くんは静かな声で促した。さっき化粧直しの時に時間を確認すればよかった、早く戻らなきゃって気持ちですっかり忘れていたわ。

椅子を引いて立ち上がろうとすると視界に影が差して私は思わず顔を上げた。先に立ち上がっていた竹内くんが物言わずに手を差し出して待ってくれている。

その手を取らない訳にはいかず、私は躊躇いながらも手を取って立ち上がった。そして手をそのままに引っ張られ店の外に出る。

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