私は彼に愛されているらしい
「清水さんって結構食べる方なんですね。」

感心したように目を大きくさせた竹内くんがぽつりと呟く。その声に私は思わず身を固くした。

多分それって褒められている訳じゃないわよね。

「小食より定食の女だって言いたいの?」

睨みを含んだ私の返しに瞬きを重ねると、ようやく意味を理解した竹内くんが口を開けて大笑いをする。でも音量を控えめにしている辺りがさすがだと思った。

「成程、定食ですか!うまいこと言いますね。」

「うまくない。」

「そんな怒らないで下さいよ。意味合いとしては褒めてます。」

そう言うと竹内くんは身を乗り出し声を潜めて私に続きを聞かせた。

「こんな美味しい料理、残す方が失礼だし気分悪いと思いませんか?」

確かに量はありましたけどね、そうからかう様な言葉もしっかり付け足して竹内くんは涼しげにコーヒーを口にした。様になる姿を睨みながら私も同じ様にコーヒーを飲む。

確かにちょっと多いなとは思ったし、微妙にボタンがきつい気もするけど帰りにしっかりウォーキングすればなんとかなる程度でしょ。それにそんなこと気にならないくらいに。

「美味しかった。」

「はい。美味かったですね。」

「連れてきてくれてありがとう。」

悔しかったけど本当に嬉しかったからそう言葉を贈る。すると予想外のことだったのか竹内くんは目を大きくしてから微笑み、どういたしましてと返してくれた。

こんな人は初めてだ。

こちらが褒めようものなら舞い上がってここに至るまでの経緯を自慢げに話す人としか付き合ったことがない。そんな私にとって竹内くんは本当に不思議な人だ。

年下なのに大人の余裕すら感じさせる雰囲気は尊敬する。私にもあれ位の余裕があったらな、舞さんを見ても思うことを心の中で呟いた。

「ねえ、竹内くんって苦労してきたの?」

「は?」

「だって年の割には落ち着いているし、私よりも大人っぽいから。」

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