私は彼に愛されているらしい
結婚か。

赤信号を機に俺は助手席に座るみちるさんの手元を盗み見た。左手の薬指には俺が贈った特に強い意味は含んでいない指輪がある。それはファッションリングで、指輪よりも指の場所に意味を与えたくて贈ったものだ。

つまりは男除け、俺のものだという独占欲の表れ。

これをサプライズで買いに行ったとき、みちるさんは顔を真っ赤にしながら恐縮した様子で指輪を選んでいた。多分あの時は嬉しいよりも驚きの方が勝っていたんだろうな。

なかなか外に付けて行ってくれない彼女に落ち込んだけど、嬉しさが強くなった頃にようやく職場で付けてくれるようになった。…そこにいくまで1ヵ月とかマジで勘弁してほしかった。

サプライズはみちるさんにはいい結果をもたらさないって分かっていた筈なのに舞い上がってやってしまった俺です。それでさらにへこんだのも今となってはいい思い出だとしておきたい。

「ただいまー。アカツキくん、おかえり。」

鍵と扉を開けるのは俺の役目、それは自分の家だから当然の流れなんだけど何故かいつもみちるさんを先に通していた。

何故か、ではないな。何もやましいことはありませんという気持ちを態度で示してるつもり。勿論みちるさんがそれに気付く訳もないけどさ。

「ただいま。」

それでもこうして声をかけてくれるのは凄く嬉しくて、自然と俺の空間に馴染んでくれているみちるさんに安心感を抱くようになっていた。

「すぐ作る。チャーハンと餃子、あとカシューナッツ炒め。」

「手伝うね!」

献立を伝えただけで何をするのか理解したみちるさんは荷物を置いて上着をハンガーにかけた。当然の様に俺の物を先に整えてから自分の荷物や服に取り掛かる、そのさりげない動きも今日は際立って見えた。

意識するってこういうことなんだろうな。

今まで当然だと思っていたことが全て特別なものに思えてくる。

「ありがと。」

「ううん。ここにかけとくね。」

微笑む姿もいつもより優しく感じた。

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