私は彼に愛されているらしい
今だって俺は、手にしてしまったから。

「不思議ちゃんってこと?」

「あはは!そう捉えたか!まあ~そう思う人もいるんじゃない?」

「はあ!?」

「感性なんだろうな。上手く言えないけど、みちるさんは人を救うような言葉をよく与えていると思う。例えは難しいけど、みんながいい人と褒める人間をみちるさんなら聞き上手って言うと思う。みちるさん、普通とかいい人とか漠然とした言葉って使わないでしょ?」

「…うん。あまり好きじゃないかな。」

からかっている訳じゃないということが伝わったんだろう、みちるさんは真剣に俺の言葉を聞いてくれていた。

嬉しくなって微笑んだ俺になおも彼女は不思議そうに首を傾げてる。

「俺はね、みちるさんの意外性あふれる言葉に振り回されっぱなしなんだよ。勿論いい意味でね?」

「そう、なの?」

「最高だよ。みちるさんしか見えなくなる。」

「うん?」

やっぱりよく分からないんだろうな。

キッチンスペースの端に立つみちるさんはスーツスタイルのままだった。肩まである緩いウェーブのかかった髪をまとめた髪形は料理を手伝おうとする気持ちの表れだろう。

右耳の後ろ側、本人が気付かないような場所の髪が一塊落ちていることに気が付いて俺は足を踏み出した。

近付くにつれて彼女の顔が少し上がっていく。角度の分だけ2人の身長差を表しているこの優越感。俺は左手を伸ばし、わざと首筋に触れるようにして落ちていた髪に触れた。

「ねえ、みちるさん。」

彼女の体が強張る瞬間、何とも言えない征服欲に駆り立てられ意地悪な笑みが零れる。

「結婚しようか。」

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