私は彼に愛されているらしい
どうするんだよ、白状しろ。

「…だって。」

だって何だよ。

「…だって男と女じゃ若さが違うんでしょう？」

は？

一瞬何を言われたのか分からなくなって俺は言葉を失った。

そして思い出した。

あれは先週の話だ。

俺がCADから自席に戻ると珍しく片桐さんが不機嫌を押し殺して本気で怒っていた。彼の目の前には同じチームの先輩設計士、加藤さんという俺より2つ上の人間が立たされて怒られていたのだ。

声は聞こえなくても雰囲気で分かった。

叱るんじゃない、あれは怒られていた。

あまり聞き耳立てるのもアレだからと素早く用事を済ませてもう一度CADに戻ろうとする、しかし席を立とうとした時に聞こえた言葉が俺の興味を強く惹きつけた。

「清水さんだから何を言っても許されるって思ってんのか。」

明らかにいい話じゃないことに俺の動きも止まった。

視線だけ動かして2人の様子を見る、片桐さんの怒りとは裏腹に加藤さんは意味が分からないと不思議そうにしていたのだ。

「いや、彼女笑ってましたよ？いつも楽しそうだし、嫌がってるようには見えませんでしたけど。」

「当たり前だろ。社会人なんだから周りの空気を読むし、クソでも先輩のお前の顔を立てるだろうが。」

無表情だが怒りが抑えきれていない片桐さんは言葉の中に不機嫌さがにじみ出てしまったらしい。その言葉に見事反応した加藤さんは怒りを露わにした。

「それを言うなら片桐さんだってそうとう言ってるじゃないですか。」

「信頼関係の上にある言葉遊びは許されるものがあるんだよ。お前はそこまで清水さんとの関係が築けてるのか？それに俺は女性に対して外見や年齢の話は一切しない。親しい中でもそれは当然のことだろうが。」

< 94 / 138 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop