一途な彼は俺様モンスター
力が抜けきったような顔をして、時々瞬きをしているが、生気は感じられない。





「マサシ…こいつを…」

「ああ、わかっておる…紙神の始末はわしに任せろ」


マサシはそう言うと「どっこいしょ」と体を起こし、着ている着物の袖をまくった。




「どうやってやるんだ…?」

「紙神の体内の組織を全て停止する…」


楓雅の質問にマサシは少し悲しそうな顔をした。マサシは医者だから、今までモンスターを救うことはしてきたが…こんなふうに命を奪うことは初めてだろう。




「紙神よ…残念じゃが、お前を救うことはできん。今のお前はそこのお嬢さんの血のおかげで、ボロボロになった体でも命を繋いでおけている…しかし、その血がない以上は…そこまで特殊な血を摂取してしまった体を治すことは、医者でもできんのじゃ…」


今の紙神を救うには、浅海の血しかねえってことか…

反対にいえば、紙神はもうとっくに死んでいるってことだ。浅海の血が体に残っているから、無理矢理生かされている状態。

助かるにはまた浅海の血で修復するしかないが、見たところ…あいつの懐にはもう血の入ったボトルはない…


少し離れた場所にいる浅海に目をやると、浅海は真由子とバネに付き添われて、心配そうにこっちを見ていた。

浅海のためにも…紙神を生かしておくのは厳しいのかもしれない…

こいつが生きている以上…浅海が安心して暮らせる日は来ないと思う。紙神が心を入れ替えたとしても、やっぱり心のどこかで恐怖は残るだろう…





「構わない…俺は罪を犯したしこのザマだ…もうこの世界に未練はない…」


そうか細い声で言う紙神に、周りにいる俺たちはしばらく何も言わなかった。沈黙を破るようにマサシが立ち上がると、紙神の腕の辺りに手を添えて力を込める。





「…紙神よ。痛みはあるか?」

「…いや」


マサシが手を添えると、紙神の腕はまるで砂のようになり消えていく…

体内の組織を浅海の血と共に破壊して、紙神の体もなくなっていくんだ…




「浅海…」


紙神が浅海を呼ぶ。その声に反応して、向こうにいる浅海がびくっと体を震わせた。




「…済まなかった・・・」


謝罪する紙神の顔は、どこか清々しく幸せそうだった。それを聞いて、浅海は怯えた表情から驚いた顔に変わる。

そして少し迷った様子でうつむいたあと顔を上げて、紙神に向かって叫んだ。





「あんたなんて大嫌い!一生恨んでやる!!…でも・・あんたが私と兄として暮してたあの時は…楽しかった…あんたのこと…兄として好きだった…」


浅海の目から涙が溢れる。




「もし…もしも…生まれ変わとか……そういうのがあるのなら…きっと次は過ちを犯すことない人生にしてね…」


その言葉を聞くと、紙神はニッコリと笑った。そしてその表情のまま、体の全てが砂になって風に吹かれて消えていった…


浅海の苦しみはやっと終わった。

やっと…あいつから解放されたんだ…




「うぅ…」


浅海が泣き崩れているのを、真由子とバネが慰める。楓雅とマサシはしばらく空を見つめている…


俺もさすがに力が抜けた…





バタンっ…








「空翔!?」


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