くれなゐの宮

宮人長の妙に改まった挨拶で、宴が始まった。

酒や料理が運ばれてくる中、舞台では優雅に楽が奏でられ…隣に座る王は静かに私の方を向く。


「久しいですな、イロヒメ様。」


「貴殿も変わりなく。」


「いやはや、布越しとはいえ貴女は麗しい。いや、いつもに増して…か。」


「またまた、お戯れを。」


「はっはっは、本当のことではないか。
ああ、そうだ。先日、南の方へ遠征に行きましてな…」


長い長いお話。
湖の畔の星空は綺麗だとか、あそこの料理はおいしいだとか。

云々云々。

私に縁もゆかりもない話を、つらつらと。


一口、また一口と、酒を口に含む王。

その度に酒の匂いが増す。


< 48 / 119 >

この作品をシェア

pagetop