くれなゐの宮

行ってはいけない気もしたが、断る事も出来ず…。

寝台の側に腰を下ろせば、イハルは何を思ったのか突然おれの服の小袋に手を伸ばし包帯と薬を取り上げた。


「まだ手当をしていないのだろう?私がしてやろう。」


「は!?いや、そんな…」


慌てて取り返そうとするものの、


「福屋の饅頭のお礼だ。」


すぐに無駄な抵抗だと悟り、肩を落とした。




傷口に薬が塗り込まれる度にじわりと痛みが広がった。

縫う程の切り傷ではないにしろ、自分でも想像以上に激しく剣を交えたのだと思い知る。


その間、彼女はとても複雑そうな表情を浮かべていた為…
何故帰るのが遅くなったのかという話をしたところ、イハルはカラカラと声を上げて笑った。


「だから福屋の饅頭と団子を持っていたのだな。」

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