誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・」


 幸せそうに隣で眠る佑典の寝顔を眺めていると、ますます切なさに胸が締め付けられて。


 気が付いたら涙の雫が一滴、シーツにぽたりと落ちていた。


 (こんなに好きなのに・・・!)


 和仁さんとの関係という、後ろめたい事情を抱えているのは事実。


 でも佑典は彼氏。


 ゆるぎない信頼感を胸に抱いている。


 にもかかわらず。


 (何も感じなかった)


 抱かれている間は、好きな人と一つに慣れる充実感に満たされていた。


 なのに心と体は別物。


 肉体的には、痛みしか手にすることはできなかった。


 (なぜ・・・)


 虚しい物思いを抱えたまま、私はベッドを抜け出した。


 佑典を起こさぬように。


 リビングを通り過ぎる際に、窓の外の夕日を確かめた。


 夏至から二ヶ月近くが経過し、日没が以前よりは早くなっている。


 それでもまだ大丈夫だとみなし、佑典はもう少し寝かせておいてあげようと思った。


 私は一人シャワー室へ向かい、全てを洗い落とした。
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