誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・」


 私は顔を上げて、和仁さんを見つめた。


 辺りには街灯はなく、フロントガラスに広がる街の明りが頼りだったけど。


 すでに夜の闇に目が慣れているのもあって、和仁さんの表情はよく見える。


 切なそうに私を見つめて、逆らおうと企む気持ちを萎えさせようとしているのかも。


 「もう余計なことは考えないで。抱かれている時は、そのことだけを考えて」


 ・・・私が俯き顔を覆ったのは、佑典に対する罪悪感から来る自己嫌悪のみが理由ではない。


 今またこうして和仁さんと関係を持って、再確認してしまったから。


 この人の腕の中に優しく抱かれ、一つになれた時だけ私は・・・吐息が漏れるような甘い感覚に襲われる。


 「おいで」


 「・・・」


 私が苦悩する真の理由を察しないままに、和仁さんは私をそっと抱きしめ、時間を共にしてくれた。


 「もう一人だった頃には戻れない。それだけは事実・・・」


 抱かれることは、この上ない喜び。


 だけどいつまでもこのような日々は続けられないだろう。


 いつしか決断を下さなければならない日は訪れるのだけど・・・今だけはこうして溺れていたかった。
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