誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「そんなこと、あり得ません」


 私は恥ずかしくなって目を逸らし、そのまま窓から流れ行く風景を眺めた。


 車はちょうど、札幌市と小樽市の境界線を越えたところだった。


 周囲は木々に囲まれ、一時的に標高が上がる。


 「別に急いでないから、高速使わないよ」


 「はい。別に構いません」


 高速道路に乗るのなら、札幌市内にいるうちに乗っておかないと意味がないかもしれない。


 そのまま国道を西へと進み、小樽市内へと向かって走行した。


 銭函(ぜにばこ)や朝里(あさり)界隈を通り過ぎ、急カーブやトンネルの続く辺りから、ようやく海が見え始める。


 「理恵は夏場、海に泳ぎに行くの?」


 「いえ、私泳げませんので。海は眺めるだけです」


 私の出身地は寒冷地でプール学習があまりなかった上に、海からは遠い地域だったので、海水浴に出かけるという習慣がなかった。


 「今年は海に出かけた?」


 「はい一度だけ」


 「誰と?」


 「・・・友達と」


 見え透いた嘘だけど、和仁さんはそれ以上は追及してこなかった。
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