誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「どうせ素人だし、上達するわけでもないのに、趣味って標榜するのもおこがましいし」


 「いいじゃない。誰にも迷惑かかるわけじゃないんだから」


 和仁さんは私の戸惑いを笑い飛ばす。


 プロには素人の苦悩なんて分からないんだと思った。


 仕事や勉強以外の何かを真面目にやってると、「プロになれるわけもないのに」と冷笑される。


 大人になってから何かを始めても上達しないし、時間の無駄だって言われるし。


 「僕のように趣味をそのまま仕事にできた人以外は、仕事や勉強以外はしちゃいけないのかな。そんなことないよね」


 「でも実際・・・」


 「ま、とりあえずは上達だとか競争だとか考えずに、気の向くままに撮ってごらんよ。いい気分転換になる」


 「そうですかね・・・」


 「やがてもっと楽しくなってきたら、趣味の一つに昇格させてみなよ」


 「趣味ですか」


 「そう。たとえ自分一人になっても続けられる何かは、絶対に必要だよ。趣味イコール男を待っているだけの人生なんて、あとから振り返ると切なすぎる」
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