誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・」


 何となくそれは。


 前の奥さんのことを言っているような気がした。


 現に私も、学業とバイト以外の関心事は主に、佑典のそばにいること、見つめていること、支えになること。


 突然ある日一人になったら、何をどうすればいいのやら・・・。


 「何かに没頭するのって、楽しいですか」


 和仁さんに問いかけた。


 「それはもちろん。ただ、僕ほどの立場になると・・・。楽しさばかりを追求はできない。時には意に沿わずとも、相手方のオファーに従って妥協しなきゃならないこともある」


 「・・・」


 「理恵は・・・、好きなように撮ってみてごらん。モノになりそうだったらいずれ、僕がプロデュースしてあげる」


 「・・・とりあえずまずは、カメラに慣れることから始めてみます」


 何となく、口車に乗せられるような形で。


 私はまず携帯電話のカメラ機能で、気になった物や風景を日々撮影してみる日課を与えられたのだった。
< 222 / 433 >

この作品をシェア

pagetop