誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「昔のことなんか、よく覚えていないんだけど」


 私があまりに真剣な表情で尋ねたから、和仁さんは一瞬驚いたようだけど、その後すぐにいつもの余裕の表情に戻った。


 「理恵が素敵すぎて、出会う前の記憶なんてどこかへ行っちゃったみたい」


 苦笑しながら抱き寄せ、頬を寄せる。


 「答えになってません」


 「答えは行動で示しているつもりだけど」


 その手は私の首筋を、胸を、そして・・・。


 「もう理恵以外要らない。・・・それが答えだよ」


 その言葉を噛みしめるかのように。


 再び体を重ね、強く抱き合った。


 彼氏を裏切っているという罪悪感と、常に背中合わせなのと同じくらい。


 この人が過去に抱いた女の人たちよりも、深く愛されたいと願ったのもまた事実だった。
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