誘惑~初めての男は彼氏の父~
***


 それから少し後のことだった。


 オーケストラ部のミーティングに佑典が顔を出していたので、終わるのを待っていた。


 ちょうど授業が終わるのが、似たような時間帯だったので。


 部室内から椅子を動かす音が響き始めた。


 やがてドアが開いて、部員たちが廊下へと出てくる。


 先陣を切った部員・・・たぶん佑典の二年後輩たちが、私の顔を見た瞬間、「あっ」と言いそうになったのを飲み込んだ。


 そして目を逸らして、そそくさと歩き去っていった。


 「?」


 それはあまり面識のない部員だったのだけど、挨拶をする間柄にあるような部員たちも様子がおかしかった。


 「お疲れ様」


 「こ、こんにちわ・・・」


 挨拶してもどこかぎこちない。


 よく分からないでいるうちに、佑典が現れた。


 ・・・隣には内村明日香さんが。


 「じゃ、理恵と帰るから」


 「佑典さん。本当にいいんですか?」


 内村さんが佑典に、私の元へ行こうとするのを妨げるかのような言葉を。


 「あんなの気にするまでもないよ。俺たち、そう容易くは揺るがないから」


 「佑典さん・・・」


 内村さんの制止を振り切って、佑典は私の元に歩いてきた。


 よく分からないけれど、一緒に歩き出した。
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