誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・」


 一瞬、言葉に詰まってしまった。


 私が佑典と共に・・・東南アジアの国へ?


 「学校どうするの・・・」


 ようやく答えた。


 「大学は、中退もしくは休学してくれないか」


 「こっ、困るわそんなの」


 言い切ってしまった。


 突然の佑典からの提案に、私は未だ動揺を隠せない。


 「そうだよね・・・。せっかく頑張ってここまで来たのに、あと一年ってところで辞めろだなんて、酷な願いだよね」


 佑典は自分が無茶苦茶な要求をしていることを、重々承知している。


 にもかかわらず私に、こんなことを求めてくるのは・・・。


 「それを承知の上での願いだ。一緒に来てほしい。大学生活最後の一年を犠牲にさせてしまう代わりに・・・理恵の一生は俺が引き受けるから」


 「私、パスポート持ってないし。それに現地の言葉も解らない」


 「パスポートなんて申請すればすぐに発行される。言葉は・・・日本人街では日本語で十分だし、高級住宅街では英語でOKらしい」


 佑典は何が何でも、私を現地に伴おうとしている。


 「それに、母が許してくれるはずがない。せっかく今まで学費を捻出してくれたのに」


 「お母さんには今度の休みに、俺からもお願いに行く。理恵を赴任先に伴いたいと。結婚した上で」


 「い、嫌よそんなの」


 枯葉が舞う、大学構内の噴水のそば。


 噴水の水は冬に向けて、すでに抜かれている。


 眩しい西日の中、私の腕を掴む佑典の手を振り解いた。
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