誘惑~初めての男は彼氏の父~
 その国、テレビニュースなどでよく耳にする。


 立憲君主制で、代々国王が国家を治め。


 農業主体の、貧しいながらも穏やかな国家だった。


 ところが近年、近代化の波が押し寄せ・・・。


 首都には日本をはじめとする先進国が、人件費の安さを求めて次々と工場などを進出させてきた。


 そのため市民の賃金は上昇し、生活向上。


 だがその一方で、首都などの都市と農村部との貧富の格差が拡大。


 法律の甘さゆえに公害問題も。


 ・・・急速な近代化ゆえ諸問題が発生し、国内には混乱の兆しが見られる。


 国民はこれまでの王に全てを委ねる暮らしに疑問を感じ始め、民主化を要求し、王政の廃止を求めるデモが相次いでいるという。


 そんな混沌とした発展途上国に、佑典が・・・。


 「危険じゃないの。暴動が日常的に発生しているようなところでしょ」


 「日本人学校は、上流階級の居住する空間に位置している。他地区に比べてセキュリティも強化されているし、問題ないよ」


 「ファゴットはどうするの」


 「教壇に立つのと、クラブ活動の吹奏楽部の顧問も同時に引き受ける条件だ。続けられるよ」


 希望していた職種と、楽器を続けられること。


 その条件を喜んで受け入れた佑典は故郷を離れ、政情不安定な異国に赴任しようと・・・。


 「そんな外国に、一人で行くって言うの?」


 「・・・来てほしい」


 「えっ」


 「理恵にも一緒に来てほしい」
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