誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「どういうことですか」


 いきなり因縁をつけられた形の私も、一歩も引かず対抗する。


 「あなたのせいで佑典さんは、東南アジアになんか行かなきゃならなくなったんですよ」


 「私のせい?」


 「佑典さんが教員採用試験で、追い込みの大事な時期に。あなたは暇なのをいいことに、年上の男性と浮気して。どんなに佑典さんの勉強の邪魔になったか、考えたことはないんですか」


 「私、そんな」


 「おかげで佑典さんは、試験で実力を発揮できなかったんですよ。この近辺で採用されなくて、やむを得ず東南アジアまで」


 「…」


 「本来だったらこの近郊に赴任して、その後は市の交響楽団に入団して、部にもOBとしてちょくちょく顔を出す予定だったのに」


 確かに元々は、そんな未来図を描いていた。


 この近辺の学校に勤務しながら、楽器も続ける。


 市の交響楽団に所属して、合間には母校の部活にもアドバイザーとして携わる。


 そんな予定は全て狂ってしまった。


 春からも佑典と交流できると期待していた内村さんは、佑典が東南アジアに去ってしまうと知り、かなり衝撃を受けていた。
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