誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「あなたのせいで佑典さんの将来は、大きな回り道を余儀なくされたんですよ。それでも平気なんですか」


 「そんなこと」


 そんなこと言われても。


 返答に困る。


 私に関する噂や、和仁さんとの疑惑。


 それらが佑典を苦しめたことに対しては、大変申し訳なく感じている。


 今でも・・・。


 「あなたさえいなければ・・・!」


 内村さんが本音を吐露する。


 私さえいなければ?


 佑典はもっと幸せになれたかもしれない。


 その時隣には・・・内村さんが微笑んでいるとでも?


 「理恵」


 私と内村さんのただならぬ雰囲気を察したのか、OBとの話を終えた佑典が私たちの間に割って入った。


 そして内村さんに注意する。


 「内村。お前の熱意はありがたいけど、理恵のことは俺個人の問題だから」


 「佑典さん・・・」


 しかし佑典は強く出られない。


 内村さんはオーケストラ部、次代のホープ。


 みんながちやほやしている。


 「じゃ、理恵行こうか」


 ようやく二人きりの時間が取れた。


 ・・・。


 「食べてる?」


 「ん。何とか」


 そうは答えたけど、本当はあまり食べていない。


 今日は佑典の最後のステージということで、胸がいっぱいで・・・。
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