誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ・・・。


 「前も言ったけど」


 二人っきりの部屋で、コンビニから調達してきたシャンパンを空けた。


 「連休に・・・俺に会いに来てくれる?」


 つまり佑典の赴任する、東南アジアの某国へ、ということ。


 「私、海外は初めて」


 バブルの頃は、大学生はかなりの確率で在学中に海外を経験したというけれど。


 私はそんな裕福な家の出ではなかったし、大学生になってからもバイトなどに追われて、今まで海外旅行したことのないまま。


 「俺もいつ以来かな。子供の頃、家族で出かけたのが一度きり。まだ母さんが生きていた頃だったけど、事実上は父さんの写真撮影旅行と化して」


 和仁さんの名前が佑典の口から語られると、胸が締め付けられる。


 動揺を顔に出さないように気をつける。


 佑典に変に思われないように・・・。


 「理恵」


 心の乱れをごまかすために、テーブルの上に置かれたシャンパンの瓶を手にしようとした時。


 佑典に手首を掴まれ、引き寄せられた。


 そしていつものように、唇を重ねた直後だった。


 「父さんの話題を出すたびに、いつも理恵が慌てて話題を逸らすのに気づいていた」


 優しく息がかかるくらい、近い距離で。


 突然佑典がそんなことを言い出したので、私はドキッとした。
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