誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「どういうこと?」


 「あの人は写真家としては一流だ。撮ってくる写真も、悔しいけれど素晴らしいと思う。でも一人の社会人として、いや父親としては・・・」


 「何か問題があるの?」


 写真に夢中で、家庭を顧みないとは昨夜ちらっと聞いた。


 他にも何か、別の問題があるのだろうか?


 カメラ機材の購入や贅沢な生活のためには、お金を湯水の如く浪費するとか?


 それとも女癖が悪いとか?


 ・・・私に対して出会ってすぐにあんなことしたくらいだから、他にも色々やっている可能性も捨てきれない。


 父親が著名人であることが知れ渡っては、何かと煩わしいから隠していたのだと最初は思っていた。


 しかし話題を避けていたのは、それだけが理由じゃなさそう。


 目に見えない確執のようなものが、存在するような気がした。


 温厚な佑典があれ程までに避けるからには、何か相当な理由があるのだろうと推察された。


 「・・・あの人が心から愛したのは、レンズの向こうに広がる風景だけなんだ」
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