誘惑~初めての男は彼氏の父~
 そんなある日のことだった。


 学校からバイト先のコンビニに向かった時は晴れていたのに、バイトを終えて帰宅しようとしたら小雨が降っていた。


 「傘貸そうか? 自転車店の脇に置いていってもいいよ」


 バイト仲間はそう言ってくれたけど、


 「いえ、平気です。小雨だし自転車で強行突破します」


 この日のシフトは夕方六時まで。


 秋も深まる季節、すでに辺りは暗かった。


 自転車がないと明日学校に行く時不便なので、無理して雨の中漕ぎ出した。


 当初は大した雨ではなかったので。


 ところが・・・。


 雨足が急に強まってきた。


 秋の冷たい雨。


 さらに雨が強くなってきた。


 制服が濡れたので、すでに閉店している酒屋の軒下で雨宿り。


 横に置かれている自動販売機に目が入った。


 雨で冷えた体。


 HOTティーがほしくなる。


 お財布からまず十円玉を取り出し、投入。


 次に百円・・・と思ったのだけど、こういう時に限って切らしている。


 ならばと千円札を取り出し、入れようとしたところ、「つり銭切れ」のランプが。


 こういう時に限って・・・。


 ほんと、ついてない日だ。


 そういえば今日は、あの人は買い物に現れなかった。


 いつも私の出番の日は、決まった時刻に現れていたのに。


 そんな些細なことも寂しく感じられる、雨の宵の入りだった。
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