カノンの流れる喫茶店
ことん、とその時、私の目の前に、カップが置かれた。

バニラ色の泡の表面に、星が綺麗に描かれていた。

顔をあげると、まだ若い、私とあまり変わらないくらいのマスターが、優しい眼差しを向けていた。

「今は、コーヒーより、ラテなんてどうかな」

「……」

「たまには、ブラック以外もいいと思うよ。それに、そのコーヒーはもう、冷えてるから」

気が付けば、横で置き去りにされてた彼のカップは、消えていた。

私の前に、ラテ。

私がラテへ手を伸ばし、マスターが私からコーヒーを下げたのは、ほぼ同時だった。

両手で包んだカップのはあたたかく、星は、かわいかった。

見計らったように、曲がきらきら星に変わる。

モーツァルトのきらきら星は、童謡で歌われるのよりずっと、タッタッとしていて、明るい。

手のぬくもりと一緒に、私の気持ちも、上向く。
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