囚われる心と体
次の日は二日酔いが酷く朝から給湯室とオフィスの往復ばかりしていた。濃いコーヒーをわざわざ作り頭と体を目覚めさせるためだ。そのお陰でなんとかこの時間まで持ちこたえた。
幸い今日は急ぎの仕事もないし絶対に定時で帰ろうと誓ってオフィスに戻った私の目に、領収書の束を持ち爽やかに笑い手を振る男の姿が映った。
「石原~。これ今日の締めに滑りこませて」
「もうとっくに時間過ぎたわよ」
「えー。これだけ頼む」
目をうるうるさせ頼み込む子犬のようなこの男は営業部で同期の高梨(たかなし)だ。こいつはいつも私に泣きついてくる常連。
冷たくあしらっても持ち前の根性で食らいついてくる。この性格のお陰かどうかは知らないが営業部ではよい成績を収めてるらしい。
高梨と半分お遊びのようなやり取りをかわしていたら、突然、高梨の後方からブリザードが吹き荒れた。
「楽しそうだね。石原さん」
出たーーー!腹黒王子登場。あの黒い微笑みを張り付けている。そんな顔して大丈夫なわけ?みんな貴方を見てますけど。
高梨はそれに気づいたのか王子をまじまじと凝視した。