殺人鬼械の痛み
2029.6.××
六月に入って間もない、梅雨に入ったかも分からないある朝。
その暑さにより、三年六組の教室では、団扇や下敷きで顔を扇ぐ生徒が続出していた。
しかし我関せずと、淡々と授業の準備を進める、夏服を着た春奈。
それを見て不思議に思った翼と青島竜樹(アオシマ タツキ)が、下敷きで扇ぎながら春奈に近寄ってきた。
「長山さん、今日は暑いね~」
「……そうですか?」
首をかしげる春奈に、竜樹は驚く。
「え? 長山さんは暑くないの?」
「いえ、そこまでは……。気温とかに鈍感なんです。あと」
「ん?」
聞き返す翼に、春奈はにこやかに微笑む。
「"春奈"で良いです。"長山さん"なんて、長いでしょ?」
「じゃあ俺、"春奈"って呼ぶね。俺のコトも、"竜樹"って呼んでね~」
気さくに返す竜樹。
その様子を見ていた翼は、思わず小声で呟いてしまった。
「……本当に暑くないのか?」
その日は英語の授業があった。
「ではココを……、長山さん、読んで下さい」
英語の教師が、音読の担当として、春奈を指名する。
英語の授業で春奈が指名されるのは、転校してきてから初めてだった。
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