サヨナラからはじめよう
「・・・・涼子さ・・・」

「もうそんな演技はいいよ」


不思議なほど冷静な自分がいた。
冷静すぎて、怖いほど低い声が出ていたと思う。

ゆっくり振り返ると、後ろに立つ司の顔を仰ぎ見た。
あいつは激しく狼狽えた瞳で私を見ていた。

「本当は全部わかってるんでしょ?」

「涼子・・・・・」

 

『涼子』



そう呼ばれた瞬間、今までのことがガラガラと音を立てて崩れていくのがわかった。

全部・・・・嘘だった。


「涼子、話を聞いて欲しい」

「・・・いつから・・・?最初から全部騙してたの?」

「それは違う!記憶がなかったのは本当なんだ。自分の名前すら何一つわからなかった」

「じゃあいつから?」

司は言葉を詰まらせるとばつが悪そうにゆっくり口を開いた。

「・・・・涼子と一緒に買い物に行った頃に思い出した」


そんなに早くから・・・
それじゃあ半分以上は全てわかった上で私と一緒にいたことになる。
彼は一体どんな気持ちで私といたんだろうか。


・・・・そんなことはもうどうでもいい。

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