サヨナラからはじめよう
「涼子さん、こっちです!」

なんとか5分前に待ち合わせ場所についたが、やっぱり彼は先に待っていた。

「ごめ~ん!待った?これでも急いで来たんだけど・・・やっぱ年だわ」

ぜぇはぁ息を切らす私を見て中村君は笑う。

「何言ってるんですか。まだ時間前でしょう?あぁほら、こんなに髪の毛乱して・・・」

綺麗な手がスッと伸びてきたかと思うと、次の瞬間には私の乱れた髪に触れていた。

「ち、ちょっと・・・!自分でやるから!」

「・・・・あれ?なんかいつもよりメイク濃くないですか?」

動揺する私のことなんか全く気にする素振りもなく、顔を寄せて彼はじぃっと私の顔を観察する。

「っそういうことは気付いても敢えて言わないのが大人の対応なの!」

「・・・・・ふ~ん・・・・?」

・・・・やばい。視線が目の辺りにある。
目の下のクマに気付かれた?

「・・・・まぁとにかく今日の映画はちゃんと見てくださいね?」

顔を離したかと思えば悪戯っ子のような顔でニヤッと笑った。

「・・・寝ませんっ!ほら、行くよ!」

「いてっ!・・・って、涼子さん待ってくださいよ!」

クスクス笑いの止まらない中村君の背中をバシッと一発叩くと、私はそそくさと映画館へと歩き始めた。
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