サヨナラからはじめよう
朝になってもそれは変わらなかった。
初めてあいつが準備した朝食に手を付けずに家を出た。
何度も何度も謝っていたけど、何も答えなかった。

だって何を言えばいい?
もういいよ?
気にしてないよ?
嘘でもそんなことは言えない。

記憶のないあいつに悪気はなかったのだろう。
あいつが言っていたことは世間的には正論なのだから。

それでも、たとえ記憶がないのだとしても、
司の口から言われるのだけは納得がいかなかった。
どうしても流すことができなかった。

この三年間あいつを完全に切り離して生きてきたけど、
自分で思っていたよりもずっとずっと傷が深いことを思い知らされた。

そのことがまた自分をひどく落ち込ませていた。
< 63 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop