金魚は月夜に照らされて



「なぁに、これ」


小さく呟いて振り返ると、薄い唇から離した煙草を灰皿に押し付けた彼は、最後に口に含んだ青白い煙と共に、「金魚」と吐いた。


「もらったんだ」

「へぇ」


誰に?とは聞けずに、私はもう一度視線を戻す。それはどうみてもありふれた金魚鉢で、真っ赤な小さい金魚が一匹、右へ左へと迷うように泳いでいた。


「金魚なんて久々に見た……」


しゃがみこんで目線を合わせると、それに気付いたのか、少し速度を上げて逃げ回るように狭い金魚鉢の中をくるくると泳いだ。二本目の煙草に火をつけた彼は、そんな私をどうでもよさそうに眺めていた。


「辛くないのかな、こんなに狭いところに閉じ込められて」


カーテンがはらりと揺れて、水面に浮かんだ月の輪郭を金魚が壊した。不意に口をついて出たのは、私の心とは裏腹な言葉だった。
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