金魚は月夜に照らされて
本当は少し、羨ましいと思った。
この狭い水槽の中で、ただこうしてひらひらと尾を揺らして。日が暮れて朝が来て、太陽が眠って月が死んで、ただそれを眺めて泳ぐだけの退屈な生涯を送るであろうこの小さな赤色は、それでも死ぬまでこの部屋に収まることができるのだ。きっと呼吸を失うその瞬間まで、彼の視界に入ることを許されるだろう。
それが少しだけ。そう、ほんの少しだけ、
「羨ましい?」
不意に低い声でそう囁かれて、彼を振り返る。口には出していないはずなのにと不思議に思って見つめると、「図星だな」と笑われた。
読心術でも心得ているのか、この男は。
いつだってそうやって、私が必死で隠している言葉、忘れようと唇を噛んだ言葉をいとも簡単に探り出して、私がそれをどれだけ必死に飲み込もうとしていたかも知らないくせに、無神経に引っ張りだしては、笑うのだ。