天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
ダイヤモンドの価値
 次の日、私はひどい疲労を抱えながら出勤に備えてメイクをした。
 心も体も重くて重くて、メイクブラシを持った腕を顔まで上げるのもひと苦労だ。
 正直、仕事を休みたかった。だって今日は晃さんの勉強会の日だから。
 晃さんからの電話にすら出られないのに、どんな顔をして会えばいい? あわす顔もないとはこのことだ。
 
 でも融通のきかないこの性格が邪魔をして、ズル休みもできない。
 そんなことしたらお店にも迷惑をかけることになる。
「はぁっ」と重苦しい溜め息を吐きながら玄関に向かうと、横から同じような重っ苦しい溜め息が聞こえてきた。
 見れば、お母さんが洗濯物を抱えながら、浮かない顔をしている。

「お母さん? どうかしたの?」
「あぁ、聡美。満幸がね、また誰かに付き纏われてるのよ」
「え? また?」

 私は強く眉をひそめた。
 やだな、またなの? 今度は誰よ、まったく。

 お姉ちゃんは当然、子どもの頃から男性に言い寄られ続けてきた。
 女性の視点からみれば、それはとても栄誉で羨ましい限りのように思えるけれど、じつはそうそう良い事ばかりでもない。

 幼児の頃から、どうもヘンな趣味っぽい男の人に物陰から粘っこい目で見られたり。
 女性らしさが生まれてくる小学生の高学年くらいの頃から、盗撮の対象にされた。
 中学生ぐらいの頃から知らない人に追いかけられたり、しつこく迫られたり。
 高校生の頃から男子生徒はもとより、モラルハザードな教師からまでアプローチされ始めた。
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