天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 これからどうしよう? 晃さんとあたし、どうなってしまうの?

 ちゃんと謝らなきゃならない。失礼な態度をとってしまってごめんなさいって。


 でも、なんて説明する? 鉄仮面が崩れたので反射的に突き飛ばしちゃいましたって?

 意味不明でしょ? 説明にも何もなっていない。

 分かってもらう為には、晃さんに全部を説明しなければならない。


 ……言うの? 全てを?


 親も親戚も、近所のおじさんおばさんも、教師も、大人達は皆揃って姉だけを見て、姉だけを讃えました。

 姉の隣に立っているあたしは、一度も顧みられた事はありません。

 いとこ達に取り囲まれて『聡美ちゃんは満幸ちゃんの絞りカス』って笑われ続けました。

 そして全ての男性には、利用価値のある道具としてしか見られませんでした。

 老若男女問わず、いつも聞こえてくる陰口は……。


『あれが、あの槙原満幸の妹? なーんだ期待して損した』


 それを言わなきゃならないの? 

 そんなミジメな事実を、自分の口で滔々と晃さんに?


 傷が深ければ深いほど、異物が大きければ大きいほど、それを吐き出すことは苦痛を伴う。

 トゲだらけの巨大な鉛の玉のように、吐こうにもノドを突き刺し、包もうにも方法が見つからない。


 それに晃さんに全てを告白するなら、どうしても告げなければならなくなる。

 全ての原因である、姉の存在を。

 完璧な美の持ち主である姉の存在を、美しいものを愛する晃さんに教えるの? あたしの口から?


 そんなのできない。

 この鉄仮面をかなぐり捨てるなんて、あたしにはできない。


 ボロボロ涙を零しながら痛いほど思い知る。

 もう、おしまいだ。

 結局この壁は、あたしには越えられないんだ。

 あたしの人生は、姉の前では無力で無意味で、それはあたしがこの世に生まれた時から決まっていた事なんだ……。



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