天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 おどけた口調で話す彼を、あたしはやっぱり悲しい気持ちで見つめた。

 言わなきゃ。ちゃんと、今ここで。


「いえ、食事には行きません」


 それを聞いた晃さんの表情がサッと硬くなった。


「……予定があるの? じゃあまた今度……」

「いえ。もう二度と、あたしを、誘わないでください。あたし、晃さんとは、二度と、ご一緒しません」


 これまで姉目当てであたしを誘ってくる男達に向かい、あたしは何度も同じセリフを言ってきた。

 あまりに言い慣れ過ぎて、まるで暗記した九九みたいにスラスラ言える言葉だった。

 なのにこんなにも、言い辛いなんて。

 目の前の晃さんの表情はますます硬くなる。


「やっぱりまだ怒ってるんだね?」

「いいえ。怒ってなんかいません。そうじゃないんです」

「じゃあ、なんで?」


 答えようとしたけど、言葉が見つからなかった。

 話せるわけがない。言えるわけがない。

 ただあたしは、これだけは伝えたいと思う事を真剣に繰り返した。


「晃さんは絶対に悪くないし、あたしは絶対に怒ってなんかいません。だけど、ダメなんです」

「…………」

「ただ、ダメなだけ、なんです」

「…………」

「今までありがとうございました。とても楽しかったです。本当です。こちらこそ、申し訳ありませ……」

「納得できない」


 晃さんは、硬い顔と声であたしの言葉を遮った。


「ちゃんと分かるように説明して欲しい」

「無理なんです」

「無理でも説明してくれ。聞くから」

「だから、説明するのは無理なんです。どうかこのまま納得してください」

「だから、納得できないって言ったろ? 好きな女にそんなセリフ言われて黙って引っ込む男がどこにいる?」
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