天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 病院でキミは言ったね? 自分はイミテーションだと。

 あの時俺は「分かった」と一言だけ答えた。


 それは、キミが何を隠していたのかが分かった、という意味だ。

 自分をイミテーションだと思っている事を知ったという意味だよ。


 聡美さんが自分をイミテーションだと思うなら、それはそれで構わないと思う。

 自分の事を決めるのは自分自身だ。俺に聡美さんの何かを決める権利なんて無い。

 それに、俺は別にどうだっていいんだ。そんな事は。


 ……ああ、違うな。こんな書き方したら誤解を受けそうだ。

 そうだな、まずは……。


 俺の父と母の話をしたいと思う。


 俺の父と母は熱烈な恋愛結婚でね。

 でも双方の親から結婚の承諾を得ることができなかったんだ。

 父は貧しくて、母を養えるだけの稼ぎが無かったから。


 それでも恋は盲目。反対されればされるほど……ってやつ。

 それならそれで結構だと、ふたりはお互いの家を飛び出した。

 つまり、駆け落ちしちゃったんだよ。


 駆け落ちする前、父は母に婚約指輪を贈った。

 大きなダイヤモンドのエンゲージリングだよ。

 ただし、イミテーションのね。


 結婚も許してもらえないほどお金の無い父が、本物なんて買えるわけがない。

 しかも素人目で見ても一発で見破れるような、ちゃちなオモチャだ。

 そのオモチャを両手で捧げ、地面にひざまづき、父は母に正式にプロポーズした。


『今はこんなオモチャだけれど、一生かけて、絶対に本物のダイヤモンドをキミに捧げると約束する』


 母は承諾して、ふたりは手に手を取って地元を飛び出した。
< 152 / 187 >

この作品をシェア

pagetop