天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 そんなカッコつけた事を言った父だけれどね、世の中ってのは、そうそう甘いものじゃない。

 身元保証人もいない両親を簡単に雇ってくれるような働き口も無くて、相当苦労したらしい。


 子どもが生まれて(俺の事だけど)ますます出費がかさみ、家計は火の車。

 食べられる雑草摘んで、公園の水汲んで生き延びたってよく聞かされた。

 それでもふたりは、いつも語り合っていたそうだよ。


 一緒にいられて幸せだから、絶対に離れない。後悔もしないって。


 ダイヤモンドの石言葉、覚えているかい?

 永遠の絆。不屈。

 自分達はどんな困難にも怯まない。ふたりの絆は永遠だ。

 あのオモチャのダイヤモンドに、両親は何度も愛を誓い合った。


 やがて孫可愛さに双方の両親もしぶしぶ折れて、ふたりの結婚を認めてくれたんだ。

 まさに不屈の精神による、絆の勝利だね。


 ただ、例の約束はなかなか果たされなかった。

 ほら、『一生かけて、絶対に本物のダイヤモンドをキミに捧げる』ってやつ。


 テレビでダイヤモンドのCMが流れるたびに、母が父をからかうんだ。

『プロポーズの時の、あの情熱的な約束はどこにいってしまったのかしらねぇ?』って。

 そのたびに父は、バツが悪そうに新聞で顔を隠してトイレに逃げ込むんだ。

 俺も母も、その姿を見てずいぶん笑った。


 その母もね、亡くなったよ。去年、病気でね。


 亡くなる前に父が母に言った。

 でっかいダイヤモンドの指輪を買ってやるぞって。

 自分の約束を果たしたかったんだと思う。


 でも母は、いらないって言ったんだ。あのオモチャのダイヤモンドの指輪がいいって。


『あれでいい』じゃなく『あれがいい』って、はっきり言った。

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