紳士な課長、愛をささやく

この時だけは私と片倉課長、誰にも邪魔されない二人だけの時間……とか思ってみたりして。

私は片倉課長に片想いしている。
だから、片倉課長と二人で過ごせるわずかな時間の為に毎日少し早目に出社しているといっても過言じゃない。

私の席はフロアの出入り口付近の島で、片倉課長の席は二つ離れた島にあり、仕事中は他の社員の人が席に座っていたらまったくと言っていいほど見えない。
だから、朝の誰もいない時間はこっそり盗み見ることが出来る。

片倉課長は常に冷静で、自分の感情をあまり表に出すことはしない。
それだけだと冷たい印象に思えるけど、然り気無い気配りが出来てすごく紳士的な人。

真剣な表情でパソコンに向かっていたり、コーヒーを飲む時に一瞬目を閉じたり。
書類を見ながら頬杖をついて眉間にシワを寄せたり、そんな仕草を見てはニヤついている。
ってちょっと怪しい女だよね。

当たり前だけど、片倉課長と仕事以外では接点がない。
話が出来なくても同じ空間にいれることが重要なんだ。

でも、そんな私にとっての至福の時間もあっという間に終わる。

「おはようございます」

その声と共に他の社員の人が出社してきてフロア内が騒がしくなる。
今日は二人きりの時間は十分もなかったな。

コーヒーを飲み終え、頭を仕事モードに切り替えてからパソコンを起動させた。
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