秘密が始まっちゃいました。
荒神さんのスピーチは素晴らしかった。


「ご紹介に預かりました。健くんと同じ部署の荒神と申します」


まず、彼がマイクの前に立った時から空気が変わった。

彼の持つ圧倒的なオーラは、顔がいいという理由だけじゃない。
人間性が勝負の営業職で一旗上げた者の持つ魅力的な空気だ。

よく透る声も、随所に挟まれるウィットも、よくある結婚式のスピーチではなかった。

列席者の誰もがお酒も食事も手を止め、彼を見つめてしまうほど。


魅力的な男。


初対面の人だってそう思ったに違いない。

彼を要する一販課のメンバーも、新郎の福谷も誇らしげな顔をしていた。


私自身も、彼のサポートなんて完全に忘れ、スピーチに聞き入ってしまった。
すごい人。
魅力は才能だ。

人が人を惹きつける抗えない力。
彼はそれに恵まれている。

スピーチを終え、自分の席に戻る荒神さん。
私もまた、すごく誇らしい気分で彼を見つめる。正直、見直した。

すると、荒神さんが私と視線を合わせ、小さくガッツポーズをして見せた。
私しか気付かない本当に小さい合図。

妙にその些細なことが嬉しかったりするのだ。



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