秘密が始まっちゃいました。
そもそも愛や恋の雰囲気が私たちにない。

どっちかっていうと、家族的な親愛が近い。

彼の涙を見てしまい、決定的な悲しみに触れてしまい、彼を抱き締めずにはいられなくなってしまった私。
この感情はきっと母性だ。そうに違いないと思う。
荒神さんが普段ちゃらんぽらんだから、ギャップにやられてしまったんだ。

そして、荒神さんもまた、唯一涙を見せてしまった私に対して、気を許しているんだろう。
泣き虫なのに涙を隠して生きてきた彼が、やっと本性を見せられる相棒ができた。だから、親しく誘ってくるんだ。

私たちの関係は友人。

そうだ、飲み友達ってのでどうだろう?
うん、しっくりくる。


そんなことを考えながら、私がひとり頷いていると、人事課の芳野お姉さまがやってくる。
時は午前中、始業間もない時刻だ。


「望月ちゃん、今日から荒神さんに強烈なアシスタントがつくわよ~」


「は?」


私は芳野さんの顔を訝しく見上げる。
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