秘密が始まっちゃいました。
「日冴に会いたかったからさ」


荒神さんは、一昨日逃げ出した私をどう思っているだろう。
あの日の荒神さんのキスが頭を過ぎる。唇と舌が肌をたどる感触は、けして嫌なものじゃなかった。
しかし、またしても瑠璃の妄想がかすめると、私は冷水を被ったような心地になる。


「荒神さん、あの土曜は……」


「肉じゃが食ったよ。うまかった。ありがと」


「ごめんなさい。あの……」


置き去りにして、時間をくれなんて言って、それから連絡なし。ホント、ダメなヤツだ、私って。
でも、どのくらい時間をもらえばいいかも、わからなくなっていた。
私が言いあぐねていると、荒神さんが先に言った。


「待つよ。ある程度は」


私は顔を上げる。荒神さんが私の顔を覗き込んでいる。


「あんまり気が長い方じゃないけどな。気持ちが向いてくれるのを待つのはいい。でも、避けるのは勘弁な。おまえに避けられたら、俺もしんどいよ」


「荒神さん」
< 266 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop