秘密が始まっちゃいました。
「お相手の方、すごく真面目な人みたいです。きっと、私にはちょっとつまらないくらい真面目な男性の方がいいんです」


「日冴……」


「荒神さんじゃ、刺激が強すぎますよ……。お見合いは行きます」


荒神さんの手がわずかにゆるんだ。
私はその指をはがすように束縛をはずした。

荒神さんが泣きそうな顔をしているのがわかった。
だけど、私は彼に背を向け、改札を抜ける。

ホームまでの長い通路をどんどん歩く。振り向けば、荒神さんがまだ見えるかもしれない。

振り向いてみればいい。

でも、もし彼が泣いていたら……。ひとり泣いていたら私はどうするだろう。

あんな目立つところで、駅の真前で、背を丸めて泣いていたら、私はきっと駆け寄ってしまう。

だから私は振り向かなかった。
唇をぎゅっと噛み締め、小走りにホームへ出ると滑り込んできた総武線に飛び乗った




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