秘密が始まっちゃいました。
私は信号が変わると同時に早足で人混みを抜ける。


「日冴!」


荒神さんが再び、私の手をつかんだ。

そのままくるりと反転させられ、向かい合う。
荒神さんの両手が、私の両手首をつかんでいた。


「離してください!会社の人が通ります!」


私は焦って言う。場所は飯田橋西口改札のある牛込橋のど真ん中だ。

今だって周囲の視線が痛いのに、こんなことをしていたら、絶対社内の人に見られる。


「誰に見られたっていい」


荒神さんの口調は、本当に余裕をなくしていた。
私の両手首を縛める力は強いのに、彼はうつむき涙を耐えるようにぶるぶる震えていた。


「お見合いなんか……行くなよ」


私は一瞬たじろいだ。
しかし、ここで負けてなるものかと首を振る。だって、いつもこうやって振り回されてきたんだもん。


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