秘密が始まっちゃいました。
それじゃ、ダメなのだ。
彼女の心が欲しい以上、無理矢理じゃダメなのだ。


「落ち着け、俺」


荒神はごく小さな声で自身に言い、望月の横たわるベッドに背を向け、床に座った。
このまま見ていては、何をしでかすかわからない。

ため息が出てしまう。
いつの間に、こんなに好きになっていたんだ。
望月日冴の油断だらけの寝顔を見たくらいで、自制が利かなくなりそうだなんて。
まるで、ヤリたい盛りの10代男子じゃないか。

荒神にとって望月日冴は、初めて秘密を知られた女であり、その秘密を受け入れてくれた唯一の女だった。
特別だった。

だからかもしれない。
絶対に自分のものにしたいと思うのは。

しかし、その『秘密』が自分たちの障壁になっている。

荒神が考える限り、望月は『涙もろい荒神薫』を恋愛対象としていない。
馬鹿にしたりはしないし、泣いている荒神を抱き締めてくれたことはあった。だが、それは恋愛感情ではない。
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