秘密が始まっちゃいました。
「そうですね。写真で見る限り、お見合いなんて必要無さそうな男性でしたし」


「イイ男だったのか?」


荒神さんが少し口を尖らせて問う。
私は笑って、彼の手をぎゅうっと握り直した。


「荒神さんの方が断然イイ男です」


「じゃあ、そろそろ名前で呼んでくんない?」


スネたような口調にことさら胸がときめくのは、恋が始まったばかりだから?
私は浮かれているのかもしれない。


「それは追々。急に全部変えるのは無理ですよ」


私の言葉に荒神さんが、また厚めのセクシーな唇を尖らせた。
最近格好つけてばかりだったのに、一度泣いてしまったらタガが緩んだみたいだ。


「ま、いーや。さて、俺んちに向かうのでいいよな」


荒神さんがそう言ったのは、いつもの私鉄に乗り換えてすぐだった。
彼の最寄り駅にはあと1~2分で到着する。同じ沿線の私の家はあと20分以上先。

……やっぱりそうなるよね。
このまま帰りましょうって感じじゃないよね。

私は赤くなっていないか頬を触りながら、おずおずと頷いた。
断る理由はもうない。

< 334 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop