EXCAS
 動きは最低限、余計な旋回などはせず。
 上下からの攻撃は加速して避け、翼を狙ったそれらはタイミングを合わせて軽く傾け。
 繊細な動き、戦場に合わない細やかな動きこそこの場に必要なそれだった。もとよりそう言った動きが得意な彼であったが、それを使うときが見つからなかった。
 常に乱戦、常にサポート、正確に読み動くにはどうしても時間が足りず人命がかかっていた。
 それがたった一人きりになった事時に発揮されるのだから、皮肉としか言いようがない。
 得意な技を披露してこそ、得意な事で誰かを助けてこそ、それは役に立つというのに。

「(自分ひとりしか助けられないようでは、これはたかが知れているな。出来るなら、こんな場以外で役立てたかった)」

 そう苦笑いしながらも、ついに目的地に着いた。
 それは油断。
 狙われていると知りながら、その僅かな心の隙間に生まれた隙が、対応を遅らせた。
 被弾箇所は右翼動力部。二度と飛行が出来る事はなく、それが致命箇所だけに爆発のカウントダウンが始まった。だがそれでいい。
 既に、目的地には到達できたのだから。
 そこは砲身。
 そこは砲口。
 『神殺し』の内部。
 奥へ奥へと潜行していく。もはや誰も止める事はなく、もはや意識が途切れそう。

「すみませんね、隊長。私は、逃げてしまいましたよ」

 死は逃げる事、目的第一としながら死に向かう事は、逃げる事。
 生きてこその任務達成。そう教わったというのに。

 ――では隊長。また、来世で会いましょう。
 願わくば、再びその背を守れる存在でありますように――

 静かな爆音と、明るい小規模な太陽の出現。
 母艦よりも遠い宇宙、友から離れた宇宙の隅。
 そこが、ダージュ・ミュラーの広い墓。
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