きらいだったはずなのに!
【茉菜side】
日が落ちてきて、さっきまでジージー泣いていた蝉の鳴き声がカナカナ、という切ない音に変わった。
悠斗が送るって言ってくれたから、家までの道のりを今度は前後じゃなく、隣り同士に並んで歩く。
付き合ってた頃も何度かこうして送ってもらったことがあったな、なんて思い出す。
……さっきは、本当にびっくりした。
まさか桐島さんが言ってた通り、復縁話だなんて思ってなかったから。
それに、あたしにひどいことを言った経緯もなんとなくわかった。
それでもひどいことに変わりはないし、許せるかと言われればやっぱり許せないと思ってしまう。
けれど、なにも知らずにいた頃より気分はずっと晴れやかだ。
あたしは押しに弱いって自負しているくらいだけど、あの頃多少強引だった悠斗はいつの間にか大人になっていて、あたしの気持ちを汲んでくれた。
好きになってもらえるように努力すると悠斗は言った。
少しだけ嬉しいと思った自分の気持ちに気づいたけど、きっとこれは恋じゃないんだろう。
だって好きだと言われても、あたしの心臓はもうあの頃みたいに脈打ったりはしなかったから。
押しに弱いあたしだけど、これがきっと答えなんだ。
これからもきっと、変わらない答え。
だって、傷ついた過去は変わらないから。