きらいだったはずなのに!

 あー、もうご褒美タイムは終わりかあ。


 まあそうだよね。


 桐島さんがこんなに優しいっていうのも、気持ち悪いし。


 ぼさぼさになった髪を手ぐしでささっと整える。


 ……そういえば、さっきあたしのこと"茉菜"って、ちゃんと名前で呼んだよね?


 うわあ、こういう時だけちゃっかり名前で呼んじゃうんだもん。


 そういうのって、本当にずるい。


 今更恥ずかしくなってきちゃったし。


 上気した頬を手で仰ぐと、だんだん熱が冷めていく。


「なんだよ、おまえほんと意味わかんねーし。良い点とってんだから、早く見せりゃよかったのに。つーか、いつの間にか機嫌なおってるし」


 そう言って、へにゃっと笑った桐島さん。


 うん、その笑い方はちょっと好きかも。


「桐島さん、あたし別に機嫌なんて悪くなかったですよ? テストは、ほら。桐島さんのことだから『こんな点数しかとれないの、おバカさん』って言われるかもとか考えてたら、見せるの少しいやになっちゃって」


「アホか。おバカさんなおまえがこんだけ点数とれたのに、褒めないとか教師失格だろ。つーか、俺はそこまで性格悪くねーよ」


「ほら! 結局バカって言ってるじゃん!」


 そう言うと、桐島さんは「まあな」なんて言って笑った。


 桐島さんは正直、良い性格してるとは思う。


 アメとムチの使い分け絶妙だし。

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