世界の端


たまには息抜きしない?

そうやって誘うのは簡単だけれど、彼女の家の事情をよく理解していない私がそんな言葉をかけるのは、迷惑なんじゃないかって、ずっと思っていた。

だから、せめて。
学校にいるときだけでも。

「お弁当、一緒に食べよう」

これが私の精一杯だった。



「うわー。彩のいいお弁当だね」

私のお弁当の中身を見て、彼女が目を輝かせる。
中に入っていた小さなハンバーグがハートの形をしていて、それが可愛いと彼女は言ってくれた。

「うちのママ、こういうの得意なんだよね。きっと暇なんだよ」

冗談交じりに笑い飛ばしてから、自分の軽率だった発言に息を呑んだ。

彼女が弟の面倒をみなくちゃいけないくらいだもん、おうちの人はきっと凄く忙しいんだと思う。
なのに、私……。

考えなしの私の発言に、彼女の瞳が切なそうに揺れていた。
だって、彼女のお弁当は、購買で買ったサンドイッチとペットボトルのお茶だったから。

家族から貰う優しさを、私は当たり前だと思っていた。

「食べる?」

私は、精一杯の笑顔で彼女にハートのハンバーグを勧めた。
だって、それ以外にどうしたらいいのか、わからなかったんだ。
どんな言葉をかけても、私の知っているものじゃ傷つけてしまいそうで恐かった。

「ありがとう。嬉しい」

目を細めて笑う彼女の笑顔が、もっと増えたらいいな。
心からそう思った。


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